平成28年10月現在、我が国の65才以上の高齢化率は27.3%に達したとされています。このことを反映してか、当院でも開院当初に比べ、患者さんの年齢層が上昇傾向にあります。年齢を重ねると、身体にさまざまな変化が起こります。耳も同様です。老化に伴い、聞こえが悪くなってしまいます。このことを老人性(加齢性)難聴と言います。
老人性難聴の特徴
- 高い周波数の音から聞こえが悪くなる。
- 難聴は徐々に進行する。
- 両耳の聴力が同時に低下する
- 音自体は聞き取れても何を話しているか理解できない。
- 耳鳴りを伴うことが多い。
老人性難聴では、高音域(高い音)から聞こえが悪くなり、しだいに普段会話をしている音域、低い音域まで聞き取りにくい範囲が広がっていきます。さらに、難聴は徐々に進行していき、片側だけが悪くなることはなく、両側の聴力が同時に低下していきます。さらに、言葉の聞き取り能力の低下により、音自体は聞き取ることができても、何を話しているのか分からないという状況が起こります。これは内耳のレベルで聞こえていても、これより先の音が伝わる経路や脳のレベルでの言葉の判断能力(語音弁別能)が低下していることが原因です。
また、老人性難聴の多くの方はキーン、ジーといった耳鳴り症状を伴います。患者さんの耳鳴りの程度によっては不安感、不眠などの症状を伴うこともあります。
老人性難聴はどうして起こるのか?
内耳の蝸牛という部分には、音を感じ取るセンサーともいえる「有毛細胞」があります。年齢を重ねる(酸化ストレスやDNA損傷が加わる)とともに有毛細胞の毛が折れたり、細胞自体がはがれ落ちたりして、有毛細胞の数が減少してしまいます。これに、内耳から脳への経路に起こる障害、蝸牛の血管の障害、聴神経の機能低下や、脳の機能低下など耳の問題だけでなく、様々な原因が複合することで老人性難聴は起こってしまいます。
難聴の進行を少しでも遅らせるには
1.耳の血流を良くする
耳の血液の循環が悪くなると、蝸牛や脳への神経伝達が十分に行われなくなってしまいます。血液の流れを良くすることが、難聴の進行を遅らせることにつながります。このため、動脈硬化を送らせることが大きな要因と考えられています。血液の流れを良くするためには、バランスの取れた食事や適度な運動を取り入れることが大切です。喫煙、多量の飲酒も悪い影響です。これは、一般的な健康維持とまったく同じです。
内耳障害の治療にはビタミン剤の投与がしばしば行われます。主にビタミンB(1,2,6,12)やビタミンEが良いとされています。これらの成分を意識した食事をとり、サプリメントを加えるのもひとつの方法です。
2.大きな音を避ける
大きな音や騒音に日常的にさらされていると、難聴が加速してしまう可能性が高いとされています。騒音下での仕事(鉄工所など)に従事されている方は、難聴の進行が早いとされています。最近は、日常的にヘッドホンで音楽を聞く方が多くなっています。今後、老人性難聴発症の低年齢化が危惧されています。
認知症との関連
また、2015年1月に厚生労働省から発表された「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」によると、難聴は認知症の危険因子とされています。
難聴により聞き間違いや聞き返しを繰り返すうちに会話が面倒になり、次第に周囲とのコミュニケーションが減っていくことで認知症につながってしまう可能性があります。このように、難聴は聞こえが悪くなるだけでなく、周囲との人間関係、さらには精神面などにも影響を及ぼす可能性があります。年のせいだと軽く捉えるのではなく、聞こえが悪くなったことを自覚すること、補聴器装用の検討や日常生活の中で改善を試みるなど、きちんと対処することが大切です。
加齢性難聴の方に対する接し方で気をつけること
1.なるべく環境が静かなところで話す
2.お互いの顔が見えるようにして話す
3.普通の声の大きさで、はっきりと話す
4.話す内容を簡潔にする
5.何度か聞き返されてしまう場合は、言い方を変える
6.話を始める前に、肩を叩くなどして注意を向ける
補聴器の装用について
残念ながら、両耳が40dB以上の難聴のレベルになってしまえば、補聴器の装用を考慮しなければなりません。補聴器の種類や選び方など詳細については、また機会を変えて書かせていただきます。
最後に
残念ながら、若返りの特効薬は無いように、老人性難聴の治療法はありません。将来的には、神経再生医療が可能になる時代が来るかもしれません。しかし、現状では難聴を進行させないこと、起こってしまえば、適切に対応することが必要です。