滲出性中耳炎とは
滲出性中耳炎は痛みや発熱などを認めず、中耳に貯留液がたまる中耳炎です。幼児期と比較的高齢者に多発する疾患で、自然治癒もありますが、中には治癒するまで数か月から数年かかる難治例もあります。幼小児期の耳鼻科の病気としては、最も完治までに時間のかかるものと言えるかもしれません。
成人の滲出性中耳炎を含めた一般的な治療方針については、このやなぎだ耳鼻咽喉科のホームページにもすでに記載しています。しかし、小児期の滲出性中耳炎の治療については、服薬や局所処置が難しいという問題点があります。治療効果を判定するのには、長期にわたる経過観察が必要なので、統一したデータを集めるのが困難でした。したがって、治療方針は様々で、各施設、各医師の個々の判断にゆだねられてきました。
小児の滲出性中耳炎のガイドライン
当院でも、これまで、小児期の滲出性中耳炎の治療には、年齢や症状、重症度に応じた様々な治療を行ってきました。最近になり、日本耳科学会により、小児の滲出性中耳炎のガイドラインが発表され、一応の治療方針の基準が提唱されました。当院も、最近はできるだけこのガイドラインに沿って、治療を行っています。
小児滲出性中耳炎診療ガイドライン(日本耳鼻学会,日本小児耳鼻咽喉科学会:編)
このガイドラインで推奨されている治療に、自己通気治療(推奨度B)というものがあります。この推奨度Bというのは「十分なエビデンスがあり、利益は害より大きい」ということです。
これまで長らく、滲出性中耳炎の治療で、耳管通気という治療法が行われてきました。耳と鼻をつなぐ耳管(じかん)に空気を通すことで、滲出中耳炎で中耳腔にたまった貯留液の排出をうながしたり、閉じていた耳管を開放する治療法です。これまで、わざわざ医院に通院し、週に何回という形でこの治療が行われてきました。
オトヴェントを使用した自己通気
自己通気というのはこの耳管通気療法を自宅で安全に行おうという治療です。
内服治療などで滲出性中耳炎の改善が認められない場合、鼻炎を伴わない滲出性中耳炎の場合、「オトヴェント」という器具を用いてのこの自己通気という治療をお勧めする場合があります。オトヴェントは鼻で膨らませるいわゆる“鼻風船”であり、それを使用することで耳管を経由して中耳内に空気を入れることができ、中耳内の換気を促し、滲出性中耳炎を治癒に導くことができます。器具を購入しなければならない(2500円:税抜)というデメリットはありますが、必要以上に圧がかからないため安全で、自宅で何回も繰り返し行うことができます。飛行機に乗ると耳が詰まって、中耳炎になる方、ダイビングをしたいけど耳抜きがうまく出来ない方にも効果があります。
オトヴェント商品パンフレット(使い方の詳しい説明もこちらに掲載されています)
もちろん、鼻炎や副鼻腔炎があれば、内服治療が優先となり、すべての患者さんがこの自己通気の適応ではありません。当院でも、この治療を積極的に取り入れていますので、一度ご相談ください