味がわかりにくいという症状は、年齢を重ねるに従って、増加する症状です。一般に女性の患者さんのほうが2:3で多いと言われています。これには、女性のほうが料理をつくる機会が多いことが、関係しているのかもしれません。
味覚異常の症状にはいくつかあります。何も食べていないのに、口の中で苦味や塩味がするという症状(自発性異常味覚)、何を食べても苦い(異味症)とかまずい(悪味症)などという症状があります。しかし、最も多くみられる症状は、味がわからないという味覚低下や味覚脱失です。
味覚障害の原因
亜鉛欠乏性味覚障害
亜鉛は、金属酵素の中心として、さまざまな重要な代謝に関与しています。亜鉛は味覚において必要不可欠な成分であり、味蕾(みらい)の中にある味細胞の再生を促します。体内の亜鉛が不足すると、味細胞の再生が追いつかず、味覚障害が起きるというわけです。一般に血清亜鉛値は、70μg/dl以上が正常値とされています。
突発性味覚障害
血清亜鉛値は正常で、他にもはっきりとした原因が特定されない方も多くおられます。しかし、これらの患者さんも、亜鉛製剤の内服で改善する例があり、潜在的な亜鉛低下が関与している可能性があると言われています。
口腔疾患
舌炎や舌カンジダによる舌苔など、舌の局所的な病気が原因となります。
薬剤性味覚障害
服用している薬が原因になる可能性もあります。降圧利尿剤・抗生物質・抗ヒスタミン剤などの一部の内服薬が、原因となります。
全身疾患により生じる味覚障害
全身の病気が味覚障害と関係している場合があります。味覚障害と関連している全身の病気は、糖尿病・貧血・肝臓疾患・腎臓病・胃腸疾患などが代表的です。また、うつ病・ストレスなどの心因的な病気も原因となります。
治 療
原因を特定し、その原因に応じた治療が行われます。
降圧剤などによる薬物の副作用が原因の味覚障害であれば、主治医と連携しつつ投与量の変更などを行いながら治療をすすめます。舌炎やカンジダなどの口腔の病気が原因であれば、それに対する局所的な治療を行わなければなりません。もちろん、糖尿病や貧血に対しての積極的な治療も必要です
原因として最も多い亜鉛欠乏性味覚障害
亜鉛欠乏性味覚障害において、過度なダイエットや偏食が亜鉛欠乏が原因の場合は、それらを改善しなければ回復は見込めません。一般に、亜鉛を多く含まれているとされている食材をあげてみます。
- 魚介類:牡蠣、煮干し、タラバガニ、数の子、サザエ、明太子 など
- 肉・卵類:肉類全般、卵
- 豆類:納豆、味噌、きなこ など
- 海藻類:のり、わかめ、ヒジキ 寒天 など
- 種実類:ごま、カシューナッツ、松の実 など
- 乳製品:プロセスチーズ、パルメザンチーズ など
- 嗜好品:抹茶、ココア など
しかし、食事性でない亜鉛欠乏による味覚障害の場合、亜鉛製剤を使った内服治療を行います。先に書いたように特発性味覚障害の中にも、潜在的な亜鉛不足による症状も多いと言われていますので、血清亜鉛値が正常範囲でも、やや低値の場合は、積極的な内服補充療法が、勧められています。しかし、若い人の場合を除いて、味覚障害の治療は長期の時間がかかると思っていただいた方が無難です。3カ月がひとつの目安とお考えください。また、治療効果があがらない患者さんもおられることも事実です。
最近、亜鉛欠乏による味覚障害に対し、ノベルジンという内服薬が、新たに使用できるようになりました。この内服薬の登場により、高用量の亜鉛の補充が可能となってきています。
味覚障害も、ほかの病気と同じで、発症後早期に治療すれば治療の効果が高いとされています。これからの人生がいわゆる「味気ない人生」にならないよう、味覚の異常に気がついたら、早めの受診をお勧めします。