自分が耳鼻科医になったころ、急性中耳炎と言えば抗生物質を出しておけば、難聴を残すことなく簡単に治る疾患と思っていました。
ところが最近、お子さんに治りにくい中耳炎が増えています。何週間もの間治らなかったり、治っても1-2週間で再発することを繰り返すことも稀ではなく、滲出性中耳炎に移行することも多くあります。原因としてお子さんを取り巻く環境の変化もありますが、その最大の原因は抗生物質が効きにくい菌(耐性菌)が増えていることです。急性中耳炎の原因菌の多くは、肺炎球菌、インフルエンザ菌(インフルエンザのウィルスとは全く別のものです)などですが、これらの中に耐性菌が異常に増えてしまっているのです。
一般に以下の要因をもっておられるお子さんは難治性になりやすいと言われています。
1)2才以下
2)人工栄養児や集団保育児
3)風邪などで過去1ヶ月以内に抗生剤の投与を受けておられるお子さん
4)アデノイド増殖症や副鼻腔炎を合併しているお子さん
5)アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息などのアレルギーの素因のある方
したがって抗生物質を服用するだけではなかなか治らない場合があり、以下の治療を追加する必要があります。
1. 鼻の治療:菌は、鼻やその奧の上咽頭に感染して、それから中耳に入るので、耳鼻科で鼻の治療を受けるとともに、自分で、できるだけハナをかむことことも大切です。また、小さいお子さんはお母さんに鼻汁を吸引してもらうことが有効です。
2. 鼓膜切開:鼓膜の麻酔をした上で、鼓膜の一部の安全なところを切開し、膿を出します。とくに難治性の中耳炎の場合、早く行うべきだと言われています。確実で即効性のある治療法です。しかし難治性中耳炎では治ってもまたすぐ再発することが多いので、繰り返し切開を行わなければならなくなる場合もあります。
3. 入院、抗生物質の点滴:ここまで行わなければならないことは稀ですが、実際入院加療を余儀なくされる場合があります。
鼓膜切開って怖くないの?
鼓膜を切るというと、びっくりされるお母さんがたくさんおられます。しかし重症のとき、あるいは内服薬だけでは治りにくいときには、鼓膜を切開し膿を外に出してあげる必要があります。治りにくい中耳炎が増えているため、最近発表された中耳炎の治療ガイドラインでは、積極的に鼓膜切開を行うことを推奨しています。切開は一瞬の痛みを伴いますが、その後はすぐ痛みがおさまり、発熱している場合は熱が下がることが多く、結局患児の苦痛を早く確実に減らすことができます。切開した鼓膜の穴は通常1週間以内で閉じ、難聴などの後遺症を残すことは99%ありません。
お母さんへのお願い
痛みや発熱は治療によってすぐ治りますし、耳漏も原因になっている細菌に有効な抗生物質を使えば、長く続くことはありませんが、中耳粘膜の軽い炎症は、無症状でしばらく続くことがあります。とくに副鼻腔炎などで鼻汁が出ているようなときには耳の炎症も長びき、滲出性中耳炎に移行することも、しばしばあります。痛みや発熱などの症状がなくなったからといって、途中でやめずに、きちんと治療を受けるようにして下さい。