患者さんから「耳鼻科の治療って何か痛そうで怖い」という声をよく聞きます。確かに内科などと違って耳鼻科の診察室には、ユニットと呼ばれる診察椅子と、機械音のするコンプレッサーの付いた診察台があります。診察に使う器具も金属製で長くて先の尖ったものが多く、これらを耳や鼻やのどに突っ込まれると思うと恐怖感を覚えても仕方ないかもしれません。まして子供さんならなおのこと怖いでしょう。そこで、耳鼻科医の立場から言い訳と少しのお願いをしたいと思います。
まずこれらの診療形態は、耳、鼻、のどの微細な部分を診察、処置をする上で現状ではどうしても必要なものです。しかし今後は、歯科診療の器具や形態が進歩しているように、もう少し威圧感のないものになっていくでしょう。また近い将来に、額帯鏡やこれまでの診察器具を必要としない診察が中心となるのは確実と思われます。
次に痛みの問題です。私たちはいたずらに痛みを伴う治療を患者さんに強いているのではありません。いくら医学が発達しようとも、注射や採血で針を刺す時はやっぱり痛いのと同じように、耳鼻科でも絶対痛くないという治療は存在しません。特に、耳、鼻、のどは細かい神経があり、知覚が過敏なところです。炎症や痛みがある場合は患部に触れるだけでも痛いのは当然です。
私たちは患者さんに「動かないでください」と言い、暴れるお子さんに対しては頭部の固定が必要なために手や足を押さえることもあります。申し訳ないとは思いますが、微細な感覚器を扱う上で、大きなトラブルを起こさないために必要なことなのです。
そこで、お願いです。私もできるだけ治療の必要性を説明しているつもりですが、ことに小さなお子さんのお父さんやお母さんには、どうして耳鼻科へ行かなければならないかをお子さんに家でゆっくりと説明してあげてほしいのです。
診察室で子供さんに泣き叫ばれるのはたいへんつらいものです。「そんなことしたら、先生に注射してもらうよ!」「先生に叱ってもらおう!」などと言って怖がらせないでください。また、お子さんと一緒になって「痛いよなあ、怖いよなあ」というのも困ります。私は子供さんに怖がられたくありません。できれば仲良くしたいのです。どうか恐怖心をあおらず、むしろ「怖くないよ」と安心させてあげるようお願いします。
もちろん私も現在の開業医における耳鼻科診療が最善とは考えていません。改善できるところは改善し、痛くて怖いイメージをなくしていきたいと思っています。